夜寝ていて呼吸が止まる
夜中、配偶者のいびきがうるさくてお困りの方は意外に多いようです。中には、時々呼吸が止まることに気付かれる方もいらっしゃるようです。そんな時は、ぜひ医療機関を受診するように勧めていただきたいと思います。
そのいびきは、睡眠時無呼吸かも知れません。
睡眠時無呼吸とはどのようなものですか
睡眠時無呼吸とは、その名のとおり、夜中寝ていて呼吸が止まる時間がたくさんあることです。その中でも特に代表的なものが、閉塞性の睡眠時無呼吸です。つまり、舌の付け根の筋肉が老化のせいで緩んだり、喉の肉片部分が肥満のせいで厚くなったり、口や顎の骨格が元々小さいために息の通り道が狭いことが原因で無呼吸が起きるというものです。睡眠時無呼吸によってさまざまな心身の不調が起きることが知られており、診断して治療をすべきであることが明らかになっています。
睡眠時無呼吸でどのような不調が起きるのですか
不調として目立つものは、眠りが浅いために起きる、日中の眠気や疲労感などです。誰でも昼下がりなどに眠気は起きますが、睡眠時無呼吸がひどいと、自動車など大事な運転の最中や、仕事の最中に居眠りをしてしまいます。列車やトラックなど過去に起こった甚大な交通事故や災害の中には、運転手や作業員が睡眠時無呼吸を持っていたのではないかと考えられているものもあるそうです。
また、夜間の無呼吸で睡眠中に酸素が足りない状態が長年に及ぶと、睡眠中も心臓や交感神経が活発に働かざるを得ない状態が続きます。これらは高血圧(詳しくはこちら)、不整脈などの心臓病、糖尿病、あるいは夜間頻尿の原因になります。ひいては、これらのせいで、心筋梗塞や脳卒中など、命に関わる病気につながってしまうかも知れません。いくら高血圧や糖尿病を治そうとしても、大元の原因である睡眠時無呼吸に手をつけていないからです。
ぜひ皆様におかれましては、「血圧や糖尿の大元」「大病の隠れた大元」かも知れない睡眠時無呼吸を治療し、快適で健康的な毎日を送っていただきたいと考えております。
検査はどのようなものですか
とはいえ、健康な成人でもわずかには夜間の無呼吸があるそうです。では病気としての睡眠時無呼吸は、果たしてどの程度の無呼吸を指すのでしょうか。
睡眠時無呼吸の診断には、夜間ポリグラフと呼ばれる検査を行います。夜寝る前に、指に身体の酸素を測るモニター、鼻に呼吸のセンサーを付けて寝ていただく、簡易検査と呼ばれるものを行います。喉にいびきのセンサー、胸やお腹に呼吸のセンサーを付けることもありますが、いずれにしても入院せずに自宅で行える、負担の少ない検査です。測定した内容はセンサーの根元の時計バンドのような機械に記憶され、医療機器業者で解析されます。
10秒以上の無呼吸が1時間に5回以上あると、睡眠時無呼吸と診断されます。この1時間当たりの無呼吸の回数は無呼吸低呼吸指数と呼ばれ、AHI(エイ・エイチ・アイ)と略されています。このAHIは、睡眠時無呼吸の診断や治療法を決める上で大切な指標になります。
治療はどのようなものですか
簡易検査でAHIが40以上あるときは、睡眠時無呼吸の重症に相当します。肥満がある方は、まず減量に取り組みましょう。一番大事な治療法です。ただし長丁場になりますので、効果とAHIの改善に時間がかかる場合があります。ぜひ睡眠時無呼吸そのものの治療も併せて始めていただきたいと思います。
CPAP(シーパップ)と呼ばれる、鼻マスクの機械を毎晩付けて寝ていただくのが、AHIが40以上ある方に対する適切な治療法です。CPAPは機械からマスクへほぼ一定の風圧が送られる機械で、これによって喉の塞がりを開くものですが、機械が呼吸に合わせて圧力を微調節してくれますし、マスクやバンドは年々小さく柔らかく進歩しています。いずれも毎日使っていただけるようにという工夫です。慣れてしまえば、かえって楽だ、むしろ着けて寝たい、という方も多いものです。何よりそれで日中の眠気が解消し、大きな病気が予防できるというのなら、取り組まない手はないでしょう。
AHIが5以上40未満の場合は、検査と治療の方針を皆様と柔軟にご相談してまいります。まず病院に入院して精密ポリグラフ検査を受けるという方法がありますが、それ以外に、専用のマウスピースを歯科で作っていただき、それを噛んで寝るという方法があります。寝ている間に下顎が落ちてしまい、舌の付け根で気道が塞がるのを防ぐ方法です。当院で歯科医院宛に紹介状をお書き致します。これによってマウスピース作成に医療保険が使えるようになります。その後、マウスピースで睡眠時無呼吸の治療効果が得られているか、簡易ポリグラフの再検査をいたしましょう。
睡眠時無呼吸を根本的に治すことはできるのでしょうか
たまに「睡眠時無呼吸そのものを治すことは出来ないのですか。CPAPやマウスピースはただの対症療法ではありませんか。」というご質問をいただくことがあります。肥満の程度が強い方は、減量だけで無呼吸が大幅に改善することもありますし、軟口蓋と呼ばれる、喉の肉片部分の塞がりが強い方の場合は、総合病院の耳鼻科で手術を受けて、口蓋垂とその周囲(所謂のどちんこ)を切り取ることで無呼吸が治る場合があります。一方、大多数の方達はそれらのタイプに相当せず、CPAPやマウスピースの対象ということになります。確かに根治的ではないかも知れませんが、治療を完全にあきらめてしまうと、いびきがひどくて眠りが浅く、日中いつも眠くてだるく、高血圧に2倍、心筋梗塞に3倍、脳卒中に4倍なりやすい状態が野放図になってしまいます。それで大丈夫でしょうか。
CPAPやマウスピースはそれらを防ぐ、価値の高い対症療法ではないかと考えております。
さいごに
1日の約4分の1は眠りの時間であり、眠りの質とは人生の質の4分の1に相当します。ぜひ皆様におかれましては、眠りの質を再確認していただき、深刻な病気を予防し、日中の質を高め、充実した毎日を過ごしていただきたいと考えております。
夜間の無呼吸を検査してみませんか。まずはお気軽にご相談ください。